松島海水浴場は2013年に開場100周年を迎えた。日本統治時代の1910年、釜山に居住していた日本人が松島遊園株式会社を設立して、遊園地や海水浴場をつくった。これが韓国で最初の海水浴場だった。朝鮮戦争後に、たくさんの飲食店や宿泊施設ができたことから海の水が濁り、砂浜も狭くなって遊園地の機能だけが残った。今は海水浴場も復元され、大勢の避暑客が訪れる。松島で一番有名なのは近くにある亀島と松島海岸を結ぶ吊り橋だった。韓国の50~60代の人はこの橋を今でも憶えている。父親に手を引かれて吊橋を渡るときは怖くて足が震えたとか、若い頃のデートの話までも出てくる。揺れる橋の上で出会えば、恋に落ちる確率が高いとか。
松島では、毎年秋に海の美術祭が開かれる。海とビーチを100%活用したインスタレーション作品は、単純なオブジェではない。海で歩く数頭のラクダ、ビーチに脱ぎ捨てられた7.5メートルのスリッパ一足、人の背よりも高い高麗青磁の風船、ビーチにつくられた超高層ビルのミニチュア、森のようにびっしり立ち並ぶポールの先で風に揺れる数十個の鐘。ここに来れば手軽にアートを楽しめる。ほとんどの美術祭の作品は分かりやすく、良い作品を鑑賞できる。美術祭期間中は、誰かと一緒に来ても共感できる場所。
海水浴場から海岸沿いの遊歩道を歩るくと岩南公園に出る。ここも海水浴場に劣らず大勢の人が訪れる。岩南公園の遊歩道は、海岸沿いと森の中を行ける2つのルートがある。森林浴を楽しみながら森の中を歩くのもいいが、海岸の遊歩道を歩くためだけに岩南公園を訪れる人も多い。岩南公園の駐車場は海に面した堤防沿いにある。波がすぐ近くでうねる場所にある駐車場は珍しい。おまけに駐車場料金が異常に安いことでも有名で、車で訪れる人には嬉しい。堤防の上で釣り人たちがいつもたむろしている。餌を垂らすだけでどんどん釣れ、週末は夜釣りのために先を争って場所取する。家族で来てお父さんは釣り、お母さんと子供たちはビニールマットに座っておやつを食べたり、一眠りする光景も見られる。
駐車場の右側に焼き貝や海産物を売る仮設建物が並んでいる。今では数少なくなった海女も高齢になったが、松島の海で採ってきた魚貝類をここで売っている。ウェットスーツを着た海女が貝やタコで一杯になった網を担ぎ、濡れたまま岩南公園を歩く姿は日常の風景。
遊歩道は海岸の崖に沿って頑丈につくられ、海を眺めながら歩く楽しみはあるが、ありのままの海の風景が恋しくなる。公園は誰が造ろうが公園であり、海はやはり海なのだ。その何かを探したい気がする。今は海の美術祭の作品がその役割を果たしているから、それで良しとするか。松島は松島であり、知る人ぞ知る釜山の隠れた観光地だ。